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東京高等裁判所 平成9年(ネ)436号 判決 1997年7月31日

控訴人(原告) X

右訴訟代理人弁護士 三浦修

同 飯田直久

被控訴人(被告) 山田建設株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 山本隆幸

同 木村利栄

同 五木田茂

同 玉置敏樹

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人が、株式会社aとの間において、平成五年三月二六日、原判決添付別紙物件目録<省略>の土地及び建物についてした売買契約を取り消す。

3  被控訴人は、控訴人に対し、金一億〇〇五六万八四九三円及びこれに対する平成六年八月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二当事者の主張

一  請求原因

1  控訴人の株式会社aに対する債権

(一) 控訴人は、株式会社X商店(以下、「X商店」という。)の株式三一九〇株を有する株主であったところ、他の株主であるB、C、D、E、F、G、H及びIとともに、平成二年一〇月三一日、株式会社aに対し、X商店の発行済みの全株式である一万四六〇〇株を、一億九五〇〇万円(一株当たり金一万三三五六円)で売却したが、代金が支払われなかったので、平成三年七月、X商店の株主らの代表者として株式会社aと協議し、株式会社aは控訴人ほかの株主らに対し、控訴人及びBの役員退職慰労金(控訴人分五九五〇万円)を同人らの株式売却代金に加算して、株式売却代金として合計二億円を支払い、うち控訴人に対しては、七六九七万九四五二円を支払う旨を合意した。

(二) その後、控訴人は、同年一一月ころ、Iから前記株式会社aに対する同人のX商店株式二四八四〇株の売買代金一三五八万九〇四一円の債権を譲り受けた。

(三) 更に、控訴人は、同年一〇月二八日、株式会社aに対し、弁済期日を同年一一月三〇日として、一〇〇〇万円を貸し付けた。

(四) よって、控訴人は、株式会社aに対し、右合計一億〇〇五六万八四九三円の債権を有するものである。

2  株式会社aの詐害行為

(一) 株式会社aは、平成五年三月二六日、被控訴人に対し、原判決添付別紙物件目録<省略>の建物(以下、「本件建物」という。)を代金三億二五四八万円(消費税九四八万円を含む。以下同様)で、同目録<省略>の土地(以下、「本件土地」という。)を代金四億二六五二万円で売り渡した(以下、「本件売買契約」という。)。

(二) 株式会社aは、本件売買契約当時、日本ホームファイナンスに七億四五〇〇万円、三和ビジネスクレジット株式会社(以下、「三和ビジネス」という。)に約七億円、控訴人ほかに二億円、控訴人に一〇〇〇万円、Jに三〇〇〇万円、Kに一〇〇〇万円、被控訴人に三億二五四八万円の債務を負っており、本件建物以外の不動産には担保価値以上の抵当権等が設定されていて、債務超過の状態にあり、本件建物のほかには、担保権の付着しない財産はなく、控訴人ほかに対する前記株式売買代金等の債務を弁済するための資力はなかった。

(三) 本件建物の平成五年三月当時の時価は、甲第二七号証の意見書によれば、四億二一〇〇万円であり、乙第二号証の鑑定書によっても、三億八八〇〇万円であったのであるから、前記本件建物の売買価額三億二五四八万円は時価よりも不相当に低い価額であっった。

したがって、本件売買契約は、債権者を害する行為であったというべきである。

(四) 仮に、本件売買契約の代金額が相当であったとしても、本件売買契約は、既に債務超過の状態にあった株式会社aが、被控訴人及び三和ビジネスと通謀の上、本件売買契約の代金債権と本件建物の請負残代金債権とを相殺することにより、被控訴人だけに優先的に債権の満足を得させる意図の下に、自己の有する重要な財産である本件土地及び建物を被控訴人に売却したものであるから、本件売買契約は、債権者を害する行為であったというべきである。

3  詐害意思

債務者である株式会社aは、本件売買契約が債権者を害することを知っていた。

4  よって、控訴人は、被控訴人に対し、詐害行為取消権に基づき、株式会社aと被控訴人との間の本件売買契約を取り消し、本件土地及び建物の現物返還は不能であるから、価額賠償金として、本件土地及び建物の時価が控訴人の株式会社aに対する債権額を上回ることが明らかなので、控訴人の株式会社aに対する右債権額である一億〇〇五六万八四九三円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年八月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(三)の事実は不知。同(四)は争う。

2  同2(一)の事実は認める。

同(二)のうち、株式会社aが被控訴人に対し、三億二五四八万円の債務を負っていたことは認めるが、その余の事実は不知。なお、株式会社aは、その他にも、本件売買契約当時、被控訴人に対し、平成四年四月三〇日に借り入れた一〇〇〇万円の債務を負っていた。

同(三)のうち、本件建物の平成五年三月当時の時価が、甲第二七号証の意見書によれば、四億二一〇〇万円であり、乙第二号証の鑑定書によれば、三億八八〇〇万円であったことは認めるが、その余は否認ないし争う。本件土地及び建物は、一体として価値を把握し、売買代金と比較すべきであるところ、平成五年三月ころの時価は、乙第二号証の不動産評価書<省略>の六億三七〇〇万円が適正価額であり、本件売買契約の売買代金はこれを上回っているから、本件売買契約は株式会社aの一般財産を減少させるものではない。また、本件建物の一般財産としての価値を評価するに当たっても本件土地に設定されていた合計七億五〇四八万円の担保権を考慮すべきであり、これを考慮すれば本件土地及び建物には剰余価値がなく、本件売買契約が株式会社aの一般財産を減少させたということはできない。

同(四)は否認ないし争う。

3  同3の事実は否認する。

三  抗弁

1  株式会社aは、平成二年一二月一九日までに、控訴人ほかのX商店の株主らに対し、二億円を支払い、うち一億九五〇〇万円は株式譲渡代金全額に弁済充当されているので、これにより、控訴人の株式会社aに対する株式譲渡代金債権は消滅している。

2  被控訴人は、債権者を害することを知って本件売買契約を締結したものではない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠関係

原審訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  株式会社aは、平成五年三月二六日、被控訴人との間で、本件売買契約を締結したこと、本件売買契約当時、株式会社aは、被控訴人に対し、三億二五四八万円の債務を負っていたこと、本件建物の平成五年三月当時の時価は、甲第二七号証の意見書によれば、四億二一〇〇万円であり、乙第二号証の鑑定書によれば、三億八八〇〇万円であったことは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、成立に争いのない<証拠省略>、原審における証人Lの証言及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

1  本件土地は、もともと控訴人、E、F、C及びIの共有であったが、同土地上にX商店が借地権を有していたところ、株式会社aは、X商店に本件土地の所有権を右共有者から取得させた上、X商店から株式を譲り受けることにより、実質的に本件土地の所有権を取得し、本件土地にマンションを建築して分譲する計画を立てた。

2  株式会社aは、平成二年一〇月三一日X商店及び本件土地の共有持分権者の代表者である控訴人との間で、①X商店は、本件土地の共有持分権者から代金一億三五〇〇万円で本件土地の底地所有権を買い取る、②       株式会社aは、X商店の株主である控訴人らからX商店の株式を合計一億九五〇〇万円で購入することを内容とする基本協定書を取り交わした。

控訴人は、X商店の株式三一九〇株を有する株主であり、他の株主であるB、C、D、E、F、G、H及びIとともに、平成二年一〇月三一日、株式会社aに対し、右基本協定書に基づき、X商店の発行済みの全株式である一万四六〇〇株を、一億九五〇〇万円(一株当たり金一万三三五六円)で売却し、その後、同年一二月六日に、株式会社a代表取締役であるLが、X商店の代表取締役に就任した。

ところが、株式会社aから控訴人らに対し、右株式の売却代金が支払われなかったので、控訴人は、平成三年七月、X商店の前記株主らの代表者として株式会社aと協議し、控訴人及びBの役員退職慰労金(控訴人分五九五〇万円)を同人らの株式売却代金に加算して、株式会社aは控訴人ら株主に対し株式売却代金として合計二億円を支払い、うち控訴人に対しては、七六九七万九四五二円を支払うことを合意した。

その後、控訴人は、同年一一月ころ、IからX商店の株式二四八〇株(一三五八万九〇四一円相当)分の売却代金債権を譲り受けた。

更に、控訴人は、同年一〇月二八日、株式会社aに対し、弁済期日を同年一一月三〇日として一〇〇〇万円を貸し付けた。

なお、後記4のとおり、株式会社aは、三和ビジネスから以後の融資を受けられないこととなり、控訴人ほかに対する株式売却代金債権を担保する目的で、本件建物完成前の平成四年七月二八日、控訴人及びBとの間で、本件建物の一部について譲渡担保権を設定する旨を合意したが、登記は経由していない。

3  Lが代表取締役に就任したX商店は、平成三年五月三〇日、被控訴人との間で、本件土地上に本件建物を、請負代金四億〇六八五万円(消費税一一八五万円を含む。)で建築する旨の請負契約を締結し、工事着工日を同年六月五日、請負代金の支払は、工事着工時、鉄骨上棟時にそれぞれ一〇パーセント、コンクリート上棟時にそれぞれ二〇パーセント、完成引渡時に六〇パーセントを支払い、完成引渡日を平成四年一〇月三一日とする旨を合意した。

また、控訴人ほかの本件土地の共有権者は、平成三年一〇月一〇日ころ、本件土地をX商店に売り渡し、平成四年二月一八日、所有権移転登記を経由した。その際、右共有持分権利者らに対しては、右売買代金として、一億三五〇〇万円が支払われた。

その後、X商店は、宅地建物取引業者でないため、国土法上の制限により、本件土地及び建物を販売することができないことが判明したので、同年四月二三日ころ、宅地建物取引業者で販売主体となることができる株式会社aに対し、本件土地の所有権及び右請負契約上の注文主の地位を譲渡し、本件土地について同日所有権移転登記を経由し、そのころ、被控訴人は、右請負契約上の注文主の地位の譲渡を承諾した。

4  被控訴人は、平成三年七月一一日ころ、右請負契約に基づき本件建物の建築工事に着工したが、X商店に対し請負代金の融資を約束していた三和ビジネスが約束どおり融資をしなかったため、被控訴人に対する請負代金は、X商店が同年六月一八日に一〇六八万五〇〇〇円、同年八月三〇日に三〇〇〇万円を支払い、株式会社aが平成四年四月二三日に四〇六八万五〇〇〇円を支払ったが、その余は未払のままであった。なお、株式会社aは、当初右四〇六八万五〇〇〇円の資金繰りがつかなかったので、被控訴人から後日一〇〇〇万円を借り受けることとして、いったん同日の支払をした後、同月三〇日、被控訴人から一〇〇〇万円を借り受けた。

株式会社aは、三和ビジネスから請負代金の追加融資は困難であるといわれていたが、何度も交渉を重ねた結果、本件建物が完成すれば融資するとの回答を得て、被控訴人に工事の続行を求めた。そこで、被控訴人は、同年六月一七日、株式会社aから、本件土地について工事残代金三億二五四八万円、損害金年一四パーセントを被担保債権とする抵当権の設定を受け、同日その旨の仮登記を経由し、同年九月二四日ころ、建築資材及び労働者をすべて被控訴人が負担して本件建物を完成させた。

ところが、三和ビジネスは請負残代金三億二五四八万円の追加融資をしないこととなり、他からも融資を受けられる見込みもなかったため、株式会社aは、被控訴人に対し、請負残代金を支払うことができなかった。

そのため、被控訴人は、株式会社aに対し、本件建物を完成後も引き渡さず、同年一一月、注文主であるX商店が請負契約に基づいて有する一切の権利義務を被控訴人に移転したので、本件建物について被控訴人を所有者として表示の登記をするよう上申する旨のX商店名義の東京法務局大森出張所宛の書面を、株式会社aから徴求し、これを同出張所に提出して表示の登記を得て、同年一二月一六日、右表示の登記に基づいて所有権保存登記を経由した。

そして、被控訴人は、そのころ、株式会社aに対し、本件建物の所有を目的として、本件土地について賃貸借契約締結の申し入れをしたが、交渉はまとまらなかった。

5  そこで、三和ビジネスは、株式会社aに対し、貸金債権五億五〇〇〇万円を有し、本件土地に株式会社aを債務者とする債権額一億九五〇〇万円の抵当権設定登記及び極度額二億二〇〇〇万円の根抵当権設定登記を経由していたが、本件土地及び建物を売却して返済に充てる方向で、被控訴人及び株式会社aと協議を重ねた。

その後、三和ビジネス、被控訴人及び株式会社aとの間で、三和ビジネスが被控訴人に融資をし、被控訴人が本件土地及び建物を株式会社aから買い受け、その代金を支払い、株式会社aがその代金の中から被控訴人に対し請負残代金を支払い、三和ビジネスに対し借入金債務を返済して右抵当権設定登記を抹消することについて協議した。

かくして、被控訴人は、最終的にはある程度の損失を受けることになることを承知の上で、右協議内容を受け入れることとし、平成五年三月二六日、三和ビジネスから七億五二〇〇万円の融資を受け、株式会社aとの間で、本件建物を代金三億二五四八万円、本件土地を代金四億二六五二万円の合計七億五二〇〇万円とする本件売買契約を締結して代金を支払ったが、その際、株式会社aに対する請負残代金債権三億二五四八万円と株式会社aの被控訴人に対する売買代金債権とを対当額で相殺することを合意した。同時に、株式会社aは、三和ビジネスに対し、三億九六五二万円を支払い、右同日、本件土地について三和ビジネスの抵当権設定登記等の抹消を受けた。

被控訴人は、同年六月一八日本件建物のための所有権敷地権の登記を経由した後、本件土地及び建物を分譲売却したが、売却代金の合計は六億六九〇〇万円であった。

6  株式会社aは、平成四年一〇月ころから平成五年三月当時、川崎のタウンビル建築資金として約七億五〇〇〇万円、三和ビジネスに約五億五〇〇〇万円、控訴人ほかに二億円、控訴人に一〇〇〇万円、被控訴人に三億三五四八万円の債務を負い、その他の債務を含めると約一八億円の債務を負っており、これに対し、主要な資産としては川崎のタウンビル、本件土地及び建物、東京都港区<以下省略>の土地などがあったものの、右債務額を超える価値を有するものではなく、債務超過の状態にあった。

7  本件土地及び建物の平成五年三月当時の時価は、甲第二七号証の意見書によれば、本件土地が三億一九〇〇万円、本件建物が四億二一〇〇万円、合計七億四〇〇〇万円であり、乙第二号証の鑑定書によれば、本件土地が二億四九〇〇万円、本件建物が三億八八〇〇万円、合計六億三七〇〇万円であった。

二  右の認定事実をもとに検討する。

1  控訴人の被保全債権について

前記認定事実によれば、控訴人は、株式会社aに対し、一億〇〇五六万八四九三円の債権を有することが明らかである。

なお、本件全証拠によるも、抗弁1(弁済)の事実を認めることはできない。

2  詐害行為について

(一)  前記のとおり、株式会社aが、平成五年三月二六日、被控訴人に対し、本件土地及び建物を売り渡したことは当事者間に争いがなく、前記認定事実によれば、控訴人主張のとおり、株式会社aは、本件売買契約が締結された平成五年三月当時、約一八億円の債務があり、債務超過の状態にあったことが明らかである。

(二)  控訴人は、株式会社aが被控訴人との間で、本件建物につき不相当に低い価額で本件売買契約を締結したため、一般財産を減少させたものであるから、本件売買契約は詐害行為に該当すると主張する。

しかし、本件建物は区分所有建物であり、本件土地はその敷地であるから、一体として処分されるのが原則であるところ(建物の区分所有等に関する法律第二二条等)、前示のとおり、本件土地及び建物の時価については、控訴人の主張でも七億四〇〇〇万円であるのに対して、本件売買契約の代金額は、七億五二〇〇万円(消費税九四八万円を含む。)であったのであるから、右代金額は総額において不相当に低い価額であったということはできない。

また、本件においては、代金総額七億五二〇〇万円のうち、本件建物の代金額が三億二五四八万円、本件土地の代金額が四億二六五二万円と定められているところ、本件建物の右代金額は、平成五年三月当時の評価額である甲第二七号証の四億二一〇〇万円、乙第二号証の三億八八〇〇万円のいずれをも下回るものではあるが、本件請負代金総額が四億〇六八五万円(消費税一一八五万円のほか、請負人たる被控訴人の利益が含まれている。)であることや、本件土地と本件建物の代金額が右のように割り振られたのは、本件土地に前記一5の抵当権等を有する三和ビジネスに対して、三億九六五二万円の債務を支払わなければ、右抵当権等の設定登記の抹消を受けることができず、結局株式会社aは本件土地及び建物の処分による債務の清算を図るという計画を達成することができない関係にあったため、被控訴人が三和ビジネスに譲歩する形で決定されたことが窺われることに照らしてみると、本件建物について定められた右代金額は、必ずしも不相当に低い価額であったと認めることはできない。したがって、本件売買契約の本件建物の代金額が不相当に低いとして本件売買契約が詐害行為であるという控訴人の主張を採用することはできない。

(三)  次に、控訴人は、仮に、本件売買契約の代金額が相当であったとしても、本件売買契約は、既に債務超過の状態にあった株式会社aが、被控訴人及び三和ビジネスと通謀の上、本件売買契約の代金債権と本件建物の請負残代金債権とを相殺することにより、被控訴人だけに優先的に債権の満足を得させる意図の下に、自己の有する重要な財産である本件土地及び建物を被控訴人に売却したものであるから、本件売買契約は、債権者を害する行為であったというべきであると主張する。

しかし、前記のとおり、控訴人が詐害行為に該当すると主張する本件売買契約の目的物は、本件土地及び建物であるところ、本件土地は、権利者を三和ビジネスとする債権額一億九五〇〇万円の抵当権及び極度額二億二〇〇〇万円の根抵当権が設定されており、被担保債権は合計五億五〇〇〇万円であるため、右抵当権等を上回る剰余価値が見込めない状態にあった上、本件建物は、株式会社aが注文主の地位をX商店から譲り受けたものであるが、本件建物の完成後の所有権の帰属とその時期について、注文主であるX商店あるいはその地位を譲り受けた株式会社aと請負人である被控訴人との間に明示の合意があったことを認めるべき証拠はなく、また、請負代金四億〇六八五万円のうち二割にも満たない八〇三七万円しか支払われておらず、本件建物はその建築資材及び労働者はすべて請負人である被控訴人が提供して完成させ、引渡もされないままになっていた等の事情に照らしてみると、本件建物の所有権は、その完成時にこれにより当然に注文主である株式会社aに帰属することとする旨の暗黙の合意があったと認めることもできず、請負人である被控訴人が原始的にその所有権を取得していたものと認めるのが相当である(したがって、本件売買契約において、株式会社aと被控訴人とは、被控訴人の株式会社aに対する請負残代金債権と株式会社aの被控訴人に対する売買代金債権とを対当額で相殺することを合意することにより、株式会社aが本件建物を注文主としていったん所有権を取得し、同時に被控訴人が本件売買契約による所有権の移転を受け、簡易の引渡も受けて、本件建物の請負契約及び本件売買契約に関する双方の債権債務を決済するという方法をとったものと解することができる。また、株式会社aが請負残代金を支払わない限り、本件建物の所有権は請負人である被控訴人に留保され、それはいわば被控訴人の請負残代金債権のための担保的な機能を果たしていたものと解することもできる。)。そして、当初請負代金全額を融資する予定であった三和ビジネスが途中で融資を打ち切ったため、株式会社aとしては、右請負残代金を支払うための融資を他から受けられる目処も立っていなかったので、そのままでは本件建物の分譲を実施することができず、時間の経過とともに、本件土地及び建物の原価を招き、これを分譲して被控訴人及び三和ビジネスに対する債務を弁済しようとする計画は実施することができない状況であったのである。

右のような状況の下で、株式会社aは、被控訴人との間で、本件売買契約を締結し、右売買代金債権と被控訴人に対する請負残代金債務とを対当額で相殺する旨を合意し、同時に、本件土地の抵当権者等であった三和ビジネスに対し被担保債務の一部を弁済して抵当権設定登記等の抹消登記手続をし、その上で、被控訴人が本件土地及び建物を分譲した一連の行為は、本件土地及び建物について優先的な権利を有する債務の弁済を図るために、やむを得ない清算方法であったというべきであり、他にこれに代わる相当な方法があったとは認め難い。これらの事情に照らせば、株式会社aと被控訴人との間で締結した本件売買契約は、株式会社aが被控訴人及び三和ビジネスと通謀して、被控訴人だけに優先的に債権の満足を得させる意図の下に締結したものと認めることはできず、これをもって、詐害行為であると認めることはできない。

なお、前示(一2)のとおり、株式会社aは、控訴人らのために、本件建物の一部に譲渡担保権を設定することを合意していたことが認められるものの、右譲渡担保権は前記のとおり登記もされないままであり(合意当時は未完成でもあり、登記できる状態ではなかった。)、株式会社aが控訴人らを出し抜いて、被控訴人に優先的に弁済を図ったと認めるべき証拠はないこと(被控訴人が右譲渡担保権の設定の合意を知っていたと認めるべき証拠もない。)や右に説示した本件売買契約に至る事情に照らして考えれば、右譲渡担保権設定の合意があったからといって、本件売買契約をもって詐害行為と認められないとの判断に影響を及ぼすものとはいえない。

他に本件売買契約をもって詐害行為であると認めるに足りる証拠はない。

3  以上の次第であるから、本件売買契約は詐害行為のいわゆる客観的要件を欠き、詐害行為であるということはできず、その余の点については判断するまでもなく、控訴人の本件請求は理由がないといわなければならない。

第四結論

よって、控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 下田文男 長秀之)

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